【書評】「教える」ということ 日本を救う、[尖った人]を増やすには|出口治明(著)

くらし

「現代の本を読んでわからないのは、書き手がアホやから」

これは出口治明さんの著書、『「教える」ということ 日本を救う、[尖った人]を増やすには』の冒頭に出てくる一文です。

始まり方の切れ味すごい…!

本を読んで、読み手が内容を理解できないのは著者の責任。
テーマに対する著者側の理解が浅いか、難しい言葉を使っているかのどちらか、とバッサリ。

同じように…

部下が上司の説明を理解できなければ上司の責任。
生徒が教師の授業を理解できなければ教師の責任。

結果として相手に腹落ちしてもらえなければ、教えたことにはならないと語られています。

確かに、伝えた=教えたとは言えないよね。

じゃあ「教える」立場で必要なことってなんだろう…と思いつつ読んでみると、そもそもの「教育」について広く学び直す事が多かったです。

今回はその書評を書いていきたいと思います。

書籍の基本情報

書籍名 「教える」ということ 日本を救う、[尖った人]を増やすには
著者 出口 治明
発売日 2020年5月1日 
出版社 角川書店
ページ数 228ページ 
定価 1,650円(本体1,500円+税)

著者、出口治明さんについて

この本の著者の出口治明さんは、ライフネット生命保険株式会社の創設者。現在は立命館アジア太平洋大学(APU)学長を勤めておられます。

驚きなのがライフネット生命創業時、出口さんは還暦でいらっしゃったということ…!72歳でいらっしゃる現在も活動的でパワフルだな~と思います。

無類の本好きとしても有名な出口さん。膨大な量の書籍を読まれているそうです。

この本の中でも触れられていますが、よく著書の中や講演で「人は「人・本・旅」からしか学べない。様々な価値観に触れることができ、視野が広がる」と語られています。

「人・本・旅」が人の視野を広げる。この考え方にとても共感できました。出口さんの本をよく読むようになったきっかけです。

参考サイト 出口治明氏プロフィール(APU公式サイト内 学長プロフィール)

概要

ライフネット生命の経営者として部下をマネジメント、APUの学長として教育現場に立たれていた経験を踏まえ、「教えること」の本質について書かれています。

構成は以下の4つの章。

第1章 後輩たちに「社会を生き抜く武器」を与える
第2章 根拠にもとづいて話す。選択肢を与える
第3章 「尖った人」を生み出すための高等教育
第4章 正しい「人間洞察」を前提にした社会人教育
この4章に加え、久野 信之氏(立命館慶祥中学校・高等学校校長)、岡ノ谷一夫氏(動物行動学者・東京大学教授)、松岡亮二氏(教育社会学者・早稲田大学准教授)の3名の方々と「教えること」について語り合った特別対談も収録されています。

この本がおススメな人

学生のお子さんがいる方

学生のお子さんがいる方にとっては、

・これからの時代を生き抜くために、学ぶべきことは何か

を語られている部分はとても参考になると思います。

 

「教える」立場にある方

親から子、上司から部下、先輩から後輩。「教える」シーンは日常の中にあります。

・相手にわかってもらうためには、どう教えればいいのか

ヒントを得たいと感じた方はぜひ読んでみてほしいです。

 

③何かを「学ぼう」としている方

教える立場だけでなく学ぶ立場の人にも有益な考え方が得られる本だと感じました。

・教えるためには情報をインプットしなくてはならない。その為にどうすればよいのか
・学び続けるため、何かを成し遂げるために必要なことは何か

ということにも触れられているからです。

 

教える立場のひとも、学ぶ立場のひとも読んで損はない。
親子で読みたい本だなと思いました。

 

それでは、本書から学んだことに移ります。

上で挙げた疑問点4つに対し、本書で得られた示唆を書いていきます。

①これからの時代を生き抜くために、学ぶべきこと

shallow focus photography of person holding camera lens

第一章の冒頭、「教育の目的」はこの2つではないかと説明しています。

①自分の頭で考える力を養う
…自分が感じたことや自分の意見を、自分の言葉で、はっきりと表現できる力を育てること(人格の完成)

②社会の中で生きていくための最低限の知識(武器)を与える
…お金、社会保障、選挙など、社会人になるとすぐにでも直面する世の中の仕組みを教えること(社会の形成者として必要な資質を備えること)

自分の頭で考える力

これからの時代は技術の進歩のスピードがどんどん速くなっていきます。新しいものがどんどん生まれていき、不確定要素も多い世の中。

次に起こることが予測できなくなる中でも生き抜くためには「自分の頭で考える力」が必要です。

事実を正確に捉えて考えるための枠組みとして、「タテ・ヨコ・算数」の3つを提唱されてます。

タテ:過去の人の考え方を知る(歴史的な視点)
ヨコ:世界の人の考え方を知る(グローバルな視点)
算数:数字・ファクト・ロジックで考える(データに基づく視点)
予期していなかったことに出合ったとき、新しいアイディアを考えたいときの考え始める「糸口」にもできます。
物事をフラットに見て正確に見極めていくためにも、意識したい枠組みです。

社会の中で生きていくための最低限の知識(武器)

実社会で出た時に困らないように必要な基礎的な知識として、以下の7つを挙げています。

①「国家」の基礎
②「政府」の基礎
③「選挙」の基礎
④「税金」の基礎
⑤「社会保障」の基礎
⑥「お金」の基礎
⑦「情報の真意」を確かめる基礎
この7つは民主主義社会の根幹をなすため、最低限これらの知識を教えるのが教育だという考え。
民主主義社会とは、成熟した市民の存在を前提としているので、成熟した市民=↑の7つの武器を身につけた市民がいなければ、民主政治はすぐに衆愚政治に陥ってしまいます。
このように前置きしたうえで、各7項目の基礎知識を解説されているのですが…これが本当に簡潔で分かりやすいんです。
たとえば①。「国家とは何ですか?」と聞かれたら…

国家って国…ですよね…?(不安)

私は正直こんな具合。では、解説を読んでみます。

よく国家の3要素として、領土、人民、(領土と人民に対する)統治権・主権が挙げられますが、国家の本質は、警察や軍などの暴力手段を合法的に独占していることに尽きると思います。

仮に喧嘩や犯罪がおきたとします。
▶国家がないと、個人で報復しあってしまう
▶報復の連鎖を防ぐため、国家が暴力手段を独占して裁く
▶国家が恣意的に権力を振るわれると困る
法律をつくり、権力を分散させ(三権分立)乱用を防ぐ
これが国家の始まりであり本質、と解説されてます。(※現在の国家は「国民国家」という概念)
言われてみれば簡単な説明に感じるんですが、これを読む前は自分の言葉では語れないな…と思うことばかり。
こんな感じで①~⑦の基礎知識が、どれもシンプルに解説されています。
これらの基礎知識、ヨーロッパでは学校教育で力をいれて教えていて、スウェーデンでは小学生のときから選挙や政党政治の利点・欠点を学んで理解しているそう。スウェーデンは若者の選挙・政治参加意識高いことで知られていますが、これは基礎教育あってのこと。
日本の学校教育について課題感を感じつつ、政府とは?、選挙とは?、税金とは?…いつか親になった時に子供に教えられるよう、簡単な自分の言葉で説明できるようになりたいと強く思いました。

第一章のこの基礎解説の部分、何度も読み返しました。正直この部分を読めただけでも、この本を読んでよかったと思います。

②相手にわかってもらうためには、どう教えればいいか

Girl, Father, Portrait, Eyes, People, Child, Kid

冒頭でも触れましたが、「教える」とは相手に「腹落ち」してもらうこと。
どれだけ知識を持っていても、相手に真意が伝わらなければ意味がない。
では、真意を伝えるためにはどうすればいいのか?

教える相手に「伝わりやすくなる」話し方

①最初に結論を述べる
②エビデンスを提示する(できれば3つ以内)
③相手のレベル合わせた伝え方をする

先に結論、後から理由。理由の中にエビデンスデータを入れる。
このような話の展開はプレゼンなどの技でもよく出てきますよね。

聞いている人が「メモを取りやすいように話す」という意識で話すのがいいとも書かれていて、これは真似したいなと思ったポイントでした。

実際にこの本の内容も、まず最初に結論を言う文章になってます。

本当に徹底されているんだな~と分かります…

③教えるために情報をインプットするには

woman reading book while sitting on chair

「記憶力」を鍛えるためには「出力」と「整理」が大事と解説する出口さん。

私たちが箪笥の中を片づけるのは、衣服を整理せずに詰め込んでしまうと、取り出しにくくなるからです。

人間の脳も箪笥と同じです。インプットした情報を整理しておかないと、うまく取り出す事ができません。

短期で整理せずに詰め込んだ記憶…定着しないですもんね。

「記憶力」を上げるための情報を整理する方法は、次の2つ。

①人に話す
②書いた文章を人に見せる
どちらも、第三者に話す&見せることがポイント。
「読んだ人にわかってもらおう」という意識が働くからだそう。
これには納得です。。

私自身今このブログを書いていて、単に本を読んだときより理解が深まったなと実感します。

新しい事を学んだ時は、誰かにどんどん説明!ですね。

④何かを成し遂げるためには

Work and Play yellow neon sign

何事かを成すには、4つのPが必要だと語られています。

①purpose 目的 ②passion 情熱 ③peer 仲間 ④play 遊び心

の4つ。

①~③でやれそうだと思ってしまいそうですが、もうひとつのP、④遊び心が決定的に大事。

「好きこそものの上手なれ」という考え方もある通り、遊び心を持って夢中になることが継続の秘訣。

何かを成し遂げるためには、人生を楽しもうとする要素が大事、という考え方にはとても共感しました。

本書で紹介されていた事例はゴールドマン・サックスのCEOのDavid Solomon氏。彼はCEOであり、プロのDJ。24時間仕事の事ばかりではなく、好きな事をして人生を楽しむことを忘れない。公私ともに活躍する経営者の姿の事例として挙げられていました。

▼調べてみたら DJ D-Sol という名前で活動されていました。多才。

まとめ:「教える」&「学ぶ」について考えるきっかけになる本

今回は『「教える」ということ 日本を救う、[尖った人]を増やすには』について以下の4つポイントに絞って得られた示唆・感想を綴ってみました。

①これからの時代を生き抜くために、学ぶべきこと
②相手にわかってもらうためには、どう教えればいいか
③教えるために情報をインプットするには
④何かを成し遂げるためには

これ以外にも、

どうすれば社会人教育が上手くいくか?
どうすれば日本で新しい産業を生み出せるか?

など、出口さん視点での教育論が詰まっています。

日本の教育での課題点が見えつつも、途中の学校関係の専門家との特別対談では実際の教育現場での工夫、事例などが読めます。あえてご自身の意見に偏りすぎないようにという意図で入れられたのかもしれません。とてもバランスよく読めました。

「教えること」&「学ぶこと」について考え直すきっかけになります。もしよろしければ皆さんも手に取ってみてください。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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